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Shanghai Knights シャンハイ・ナイト

アメリカ映画 (2003)

ジャッキー・チェンが主演するカンフー映画。しかし、舞台が19世紀末のロンドンなので、香港カンフーという感じはせず、ユーモラスな作品という印象の方が強い。その中で、アーロン・ジョンソン(Aaron Johnson)が、チャーリー・チャップリンの子供時代という設定だけあって、脇役ながら芸達者なところを見せてくれる。この映画の時代は、ヴィクトリア女王の即位50年式典の最中の大活劇ということから、時代が特定できる。1887年6月20日が即位50年目に当たるからだ。そのお陰で、IMDbのGoofs(ドジ)欄では、Anachronisms(時代錯誤)ほか、全部で50項目以上もの間違いが指摘されている。映画で現れる順に、代表的なものを紹介すると、映画の冒頭、紫禁城に義和団が襲いかかり、皇帝の御璽を盗み出すが、義和団の北京入城は1900年6月10日。13年ズレている。少し話は逸れるが、日本語版で御璽を龍玉と訳しているのは良くない。御璽は皇帝の「印鑑」であり、龍玉と訳すと単なる宝石だと間違われる。さて、ジャッキー・チェンが演じるジョンが預けておいたお金の投資先として、相棒ロイはツェッペリンを挙げるが、ツェッペリン伯爵が退役後に独力で硬式飛行船の開発に乗り出すのは1890年。成功するのは1900年なので、ズレは3~12年。ここまでは、舞台が中国とアメリカ。主要な間違いはロンドンに入ってから多発する。ロンドンの俯瞰映像にあるタワーブリッジの完成は1894年。ズレは7年。ジョンとロイのバッキンガム宮殿の前でのシーンには指摘が山ほどある。まず、建物について、バッキンガム宮殿のビクトリア・メモリアルは女王の死後1911年に除幕されたもので、ズレは24年〔そもそも女王はまだ生きている〕。宮殿のファサードは1930年代の築造(43年以上のズレ)。しかし、この2点は、現地ロケをする以上仕方ないことだろう。しかし、見せ場の1つの衛兵とのやり取りでの時代錯誤はいただけない。今では名物となっている真っ赤な服を着た不動の衛兵だが、衛兵が赤い制服を着るのは1904年以降(ズレは17年)、さらに、ロイの股を強打したLee-Enfieldライフルを持つのは1940年以降(ズレは53年)。ジョンとロイはラスボーン卿の納屋から自動車で逃げ出すが、映画に出て来た自動車は1909年製。ズレは22年。そもそも1887年の段階では、まともな自動車など存在しなかった。ラスボーン卿と共謀するウー・チャウが使っている種類の機関銃は第1次世界大戦時のものとの指摘もある。その時、打上げられていた花火に青色が入っているが、そんな色は当時なかったとも… 最後に主要登場人物の行く末。コナン・ドイル警部は叙任後、シャーロック・ホームズを主役とした探偵小説の作家を目指す。コナン・ドイルが第1作『緋色の研究』を発表したのは1886年。ズレはマイナス1年。ロイが次のビジネスとしてジョンに提案するハリウッドでの映画だが、そもそも映画が観客に見せる形になるのは1900年以降で、ズレは13年以上。最初のハリウッドの映画スタジオは1911年(19世紀はイチジク農園)で、ズレは24年以上。チャップリンは確かにイギリス出身で1889年生まれだが、ヴィクトリア女王の即位50年の時点では2歳。映画のチャーリーは13歳。ズレは11年。ジョンがジョン・ウェインになるという落ちに至っては、本物のジョン・ウェインは1907年生まれなので、ズレは半世紀以上だし、そもそもジョン・ウェインは中国人ではない。まあ、この映画は、いわゆる「歴史物」ではなく、単に19世紀末を舞台にしただけのコミカル・アクションなので、整合性など必要ないが、あまりに指摘が面白いので紹介した。

アーロンの登場場面を特定するため、全体の流れを簡単に記しておこう。①紫禁城(the Forbidden City)で皇帝の御璽(the Imperial Seal)がラスボーン卿と配下の義和団(Boxers)兵士によって奪われ、御璽の番人が殺される。番人の息子はアメリカ西部で保安官になっているジョン、その妹がリン。②リンから手紙を受け取ったジョンは、保安官を辞め、ニューヨークへ向かう。ロイに預けておいた資金を回収し、ロンドンに向かうのが目的。③ロイは、ジョンの予想とは違い、全財産を失くしてホテルでボーイとなり、それでも浮気女性と楽しく暮らしていた。そこにジョンが現れ、金を返せと言われ大慌て。何とかごまかし、箱に隠れて、ロンドン行きの船に乗り込む。④ロンドンに着き、アメリカ人丸出しで街を歩いていると、アーロン扮するチャーリーが、ロイにぶつかって懐中時計を掏る。時計を盗まれたロイがチャーリーを追う追跡劇から、ジョンと地元のチンピラとの華麗なアクションへと発展。⑤ジョンとロイはスコットランド・ヤードに連れて行かれ、ドイル警部から感謝され、拘留されている妹のリンと会う。リンが好きになったロイは脱獄ツールを渡す。⑥ヤードから出て、ロイがバッキンガム宮殿の前で衛兵をからかっていると、チャーリーが現れ、時計はニセモノだったと告げる。腹を立てたロイだったが、強い雨が降り出し、チャーリーが「宿」へと案内。⑦そこは貴族か金持ちの留守宅。そこで、ラスボーン卿の城への侵入策を話し合う中、チャーリーが名案を出す。⑧ラスボーン卿で開催された舞踏会に、変装して馬車で乗り付けるジョンとロイ。チャーリーは馬車のところで待っているよう言われ、2だけ中に入る。舞踏会を抜け出して御璽を探すが、見つからない。その途中で、脱獄して単身城に潜り込んでいたリンと遭う。そしてジョンが抜け道を見つけ、着いた先は納屋。⑨そこでは、ラスボーン卿と皇帝の弟で帝位簒奪を目論むウー・チャウが密会していた。ウーが出て行った後、リンがラスボーン卿の持っていた御璽を奪おうとするが、床を転がっていった御璽を奪い取ったのは、チャーリーだった。そして、子供しか通れない抜け穴から逃走。⑩ラスボーン卿は、納屋に火を点け、残った3人を閉じ込める。リンは天井から抜け出すが、器用なことのできないロイは、置いてあった自動車で脱出。⑪その夜3人は怪しい宿に。破廉恥な行為をしていた2人を嫌って抜け出したリンを2人が追って行くと、突然 義和団を引き連れたラスボーン卿に遭遇。⑫3人は造船所のような場所に連れて行かれ、リンはウーの身代わりとして連行、ジョンとロイはテムズ川に沈められかけるが脱出。⑬2人は警部の家へ直行。そこでチャーリーの帽子を渡し、居場所を推定してもらう。⑭向かった先は、マダム・タッソーの蝋人形館。ロイは、チャーリーが隠しておいた御璽を見つけるが、チャーリーを人質にした義和団に奪われる。⑮駆けつけた警官隊に逮捕されたジョン達を、チャーリーが護送中の馬車から救い出す。⑯そして、ヴィクトリア女王の即位50年式典。ジョンは、機関銃で王族を皆殺しにしてリンに罪をなすりつけようとするウーの企みを阻止し、万策尽きてベッグ・ベンに逃げ込んだラスボーン卿と激しい剣戟を見せる。塔から落下して死亡するラスボーン卿。⑰ジョン、ロイ、警部は女王からサーの称号を叙任され、ジョンとロイはアメリカへの帰途に。港に向かう馬車の荷箱にはチャーリーが隠れていた。因みに、ジョンのフルネームはジョン・ウェイン、チャーリーのフルネームはチャーリー・チャップリン、警部の名はコナン・ドイル。おふざけも甚だしい。

アーロン・ジョンソンは、結婚後Aaron Taylor-Johnsonと書くのが正式となったが、子役時代はまだ「Taylor」はないので、敢えて標記しない。アーロンは、私のお気に入りの子役の1人で、「トムとトーマス」での天才的な1人2役に感心してから、「The Thief Lord(泥棒の王様)」(2006)、「幻影師アイゼンハイム」(2007)、「ジョージアの日記/ゆーうつでキラキラな毎日」(2008)、「グレイティスト」「ノーウェアボーイ/ひとりぼっちのあいつ」(2009)、「キック・アス」(2010)など、ずっとフォローしてきたが、子役らしいのは最初の3本だけなのは残念だ。今回の役は、ヴィクトリア朝時代のロンドンの浮浪児で、非常に強いロンドン訛りで話している。そこで、かつて『Oliver Twist(オリバー・ツイスト)』の2007年TV版(176分)を全訳した時のジャック・ドーキンズの話し方を、そのまま適用した。


あらすじ

まじめなジョン〔配役表ではChon Wangとなっているが、映画の中での発音はジョン・ウェイン〕と、女たらしで半分詐欺師のロイの2人が、盗まれた皇帝の御璽(ぎょじ)を追ってロンドンに到着してすぐ、人ごみの中で少年にぶつかられる。あのチャップリンのようなボーラーハットを被った少年で、汚れた顔をしている。ぶつかられたロイが「おい! 気をつけろ、青二才!」と怒鳴ると、「悪いね、だんな」と謝り、「お偉方が、道に迷っちまったとか?(You gents lost your way?)」と訊く(1枚目の写真)。ひどいロンドン訛りに加え、相手をバカにしたような言い方だ。ジョンが、言葉通りに受け取って、「俺の妹を探してる。オックスフォード通り32番だ」と答えると、「知ってるぜ、だんな。おやじと一緒にいたからよ」(2枚目の写真)。「道を教えてくれるか?」。「ちょっぴりボケちまったが、1シリくれりゃ、しゃきっとするぜ」〔1シリ=1シリング=12ペンス、当時は手紙1通や新聞1部が1ペニーだったから、今の感覚で1000円くらい〕。ロイは、この高額要求にピンときて、「俺たちを何だと思ってる? マスコギーから来た田舎モンか? たわごとは他で売ってこい。俺達は買わん」と取り合わない。すると、少年が「チップありがとよ、だんな」と言って見せたのが、さっきぶつかった時に摺ったロイの懐中時計(3枚目の写真)。「おい、俺は、そいつを叔父貴から盗ったんだぞ!」。さっと逃げ出す少年。ここから、追跡劇が始まる。このシーンでの見所は、様々に変わる少年の表情。さすがに、アーロン・ジョンソンは巧い。
  
  
  

2人に追われても、少年は、勝手知ったる街なので余裕で逃げる。しかし、走っている途中で、地元のボスに捕まってしまう。「このチビのゴミあさり野郎! チャーリー、俺達の縄張りを 荒らしやがったな?」。名前を言ったことから、顔見知りだと分かる。「おいら、まっ正直だぜ。ホント」(1枚目の写真)。ボスは、チャーリーの体をさっと触ると、すぐに懐中時計を見つける。「なら、こいつは何だ?」(2枚目の写真)。チャーリーが結構怯えた顔をしているので、相手はかなり手ごわいワルだ。だから、次の「たっぷりブチかましてやる。救貧院から逃げ出そうなんて思わんようにな」の言葉は、本気なのだろう。チャーリー危うし。
  
  
  

その時、ようやく追いついたジョンが「子供を放してやれ」と声をかける。「くそったれのヨソモンが! 余計な首を突っ込むな!」。それに対し、ロイは「ガキをどうしようと構わんが、お前が持ってるのは俺の時計だ」と口を挟む(1枚目の写真、右端がジョンことジャッキー・チェン)。こちらの方は、ジョンと違い、チャーリーのことなどまるで心配していない。「こっちは多勢、お前らは2人だぞ! 失せろ!」。口先だけのロイが「落ち着けよ。1度目だから大目に見てやる。2度目はそうはいかんぞ」と大きな口を叩き、ボスが怒って気を取られた一瞬に、チャーリーは懐中時計を奪い返し、ボスを地面に押し倒して逃げる。そこから始まる2人の別々のシーン。ジョンは10人ほどのチンピラと1人で闘い、ロイはチャーリーを追いかける。ジャッキー・チェンの映画らしく、見どころはジョンの闘いぶり。本格的なカンフーの闘いではなく、市場に置いてあるものを使った、「お遊び」のような、「ジョンが弱いけど頑張っている」ような闘い方がコミカルで面白い。特に、傘を使った闘い方はなかなかユニークで、樽に身を隠したチャーリーも思わず見とれてしまう(2・3枚目の写真)。コメント:解説で紹介した「間違い」の中に、「最初は汚れていたチャーリーの顔が、途中からきれいになる」というものがある。1番初めの3枚の写真では確かに汚い。しかし、この下の2枚目では確かに汚れていない。
  
  
  

ジョンが街のチンピラを一人残らず片付けたところに、スコットランド・ヤードの警部が警官隊を引き連れてやって来る。警部は、永年の課題を一瞬に解決してくれた2人に感謝して、ヤードに連れて行く。そこで、警部は、「浮浪児が渡してくれた」と懐中時計をロイに渡す。「青二才が傷付けてなきゃいいが」。「つきが回ってくるよう期待するよ」。「『つき』って、どういうこと?」。「君が 不運な目に遭ってきたらしいことは、その時計から推論できる」。元、シェリフだったジョンが、「その通り。どうやって分かった?」と興味津々に訊く。「私が開発した調査手法だ。所持品を精査することで、その人間の個人的な細部まで推論することができる」。「他に何が分かるかね?」。「この時計の持ち主は、賭け事はからきしダメで、射撃は下手だ。何度も 運よく死を免れたが、哀れで無益な目標を追い求める人生を送ってきた。それに尻の軽い女が大好きだ」。ジョンは「凄いな!」と大感激。この推論、警部の名前がコナン・ドイルなのでシャーロック・ホームズのパロディだが、一つ大きなミスがある。そこが、この警部のダメなところなのだが、後で分かるように、この時計は模造品。それに気付かないのは、警官として失格だ。さてヤードから出て来た2人。ロイは、バッキンガム宮殿の前で赤い制服を着た衛兵をからかい、Lee-Enfieldライフルで股を叩かれる。この点の「時代錯誤」については、解説で述べた通り。それを見て、忽然と現れたチャーリーが笑う。ロイが、「衛兵がこんなことするなんて。許されん!」と怒ると、「なんで からんだんだよ」といなす。「消えろ、この青二才」。「時計は 返ったかい?」(1枚目の写真)。「時計のことは どうでもいい。行っちまえ」。「まがいモンじゃないかよ」。「なに言ってる? 『まがいもの』? 叔父がリンカーン大統領から盗んだんだ。貴重な家宝だぞ」。「質屋も、門前払いさ」。この時、ジョンが「盗むのは よくない」とお説教。チャーリーは、「盗らなきゃ、食ってけねぇ」と反論し、「そんでさ、あの殴る蹴るって、どこで覚えたんだい?」と訊く。ロイは嫌いだが、ジョンには好意を持っている。「父だ」。ここで、ロイが嫌味を言う。「聞いたことあるか? 両親ってやつだ。俺達には愛情あふれる両親がいる。お前にはいない、孤児だからな」。ムッするチャーリー(2枚目の写真)。ロイは、さらに、「行っちまえ お前のせいで俺達がワルに見える。邪魔なんだよ」と畳みかける。その時、急に、強い雨が降り出す。チャーリーは、「泊まるトコ、あるんかよ?」と訊いてやる(3枚目の写真)。
  
  
  

チャーリーが連れていったのは、貴族か金持ちの豪華な屋敷。もちろん持ち主は旅行中で不在だ。「さあ、入って 暖まってくんな」と2人を迎え入れる(1枚目の写真)。ロイは、「こんなとこに押し入って、ひどい目に遭ったらどうする」と文句。「そうは言っても、お見事」と褒めて、ソファに寝転がって葉巻をふかす。置いてあったチャーリーの好きなチョコレートも食べてしまう。「それ、最後のチョコだぞ」。「ああそうさ。俺は手前勝手だからな(You gotta look out for number one)」。この言葉は重要で、後で、しっぺ返しをされる時にも意識的に使われる。のんびりと豪奢な雰囲気を満喫するロイを見て、御璽奪還と殺された父の復讐のためロンドンまで来たジョンのイライラが募る。「時間を無駄にするな。ラスボーンを捜さないと」〔ラスボーン卿は、父を殺し御璽を奪った男〕。ロイは「ちゃんと計画を立てた」と言って1枚の紙を渡す。そこに描かれた幼稚な絵は、カタパルトで城の中に飛び込むというナンセンスな案。「トンネルを掘るって代案も考えた」と自慢そうに語るロイを尻目に、ジョンは絵を暖炉に投げ込む。チャーリーも、「カタパルト? アホかよ! そんなもんいらねぇだろ」と痛烈に批判(2枚目の写真)。ロイ:「誰がお前に訊いた? 大人が話してる時に割り込むんじゃない」。チャーリーは暖炉の上に並べてあった招待状の1つを取り上げると、読み上げる。「女王陛下の御即位50周年舞踏会に御臨席を賜りたく御来駕をお待ち申し上げます。ネルソン・ラスボーン卿」。それを聞いたジョンは「良さそうだ」。ロイは「城の警備はどうなんだ。ジョンと俺がやすやすと入り込めるもんか」と負け惜しみ。しかし、チャーリーの「変装するだけじゃねぇか」(3枚目の写真)の一言で、それも解決。
  
  
  

次のシーンは、城へ向かう馬車の列。この城は、ウィンザー城を真似て19世紀に改修されたチェコのフルボカー(Hluboká)城。城へ着くとチャーリーが馬車の扉を開け、まずロイが降りて来る(1枚目の写真)。ロイは陸軍少将に、ジョンはインドのマハラジャに変装している。2人が中に入って行こうとすると、チャーリーも付いて行こうとするが、ロイに「こらこら、何してる?」と咎められる。「おいらも行くぜ。幽霊が出るってハナシだ」(2枚目の写真)。「ダメだ。お前は従僕だから馬車に戻ってろ。急いでおさらばする時があるかもしれん。役柄があるだろ。いつも思い通りになると思うな」。チャーリーは、ふてくされたように馬車の前にしゃがみ込む(3枚目の写真)。
  
  
  

城の中でのシーンにチャーリーは出て来ないので省略する。城の脇の納屋で、ラスボーン卿と「清の皇帝の弟」ウー・チャウが秘密裏に話し合っている。敢えて、「」で書いたのは、ウー・チャウがどんな人物か良く分からないから。英語では「He's the emperor's bastard brother.」と言っている。「bastard brother」には私生子の弟という意味と、陰険な弟という意味があり、どちらでもあり得る。日本語版の訳は前者を採用しているが、私は、後者の方ではないかと思っている。どのみち歴史上の人物ではないので、決め手はない。ウー・チャウが納屋を出て行った後、ジョンの妹で御璽を奪いに来たリンが、ラスボーン卿に飛び掛り、御璽は納屋の地面を転がり、慌ててそれを取ろうとしたロイの目の前で、チャーリーが急に現れてさっとかすめていく(1・2枚目の写真)。チャーリーが、どういうタイミングで、なぜ納屋に来たかは謎だが、納屋に入って来たのは壁の小さな穴から。ロイに捕まらないよう、チャーリーはその穴へと戻る。ロイは手を突っ込んだが、捉まえたのはチャーリーの帽子だけ。悔しがるロイに向かって、チャーリーがニヤッとして「おいらも、手前勝手なんでね(Just looking out for number one.)」と言う(3枚目の写真)。これが、以前、チャーリーの大事なチョコを勝手に食べたロイの言葉を投げ返した仕返しになっている
  
  
  

大事な御璽をチャーリーに奪われたジョンは、警部に助けを求める。ロイが奪い取ったチャーリーの帽子を、「あの子のだ。あんたの調査手法で、彼がどこにいるか教えてくれ」と頼む。ホームズばりに、大きな虫眼鏡で帽子を調べた警部は、「パラフィン蝋か… 実に面白い」と思わせぶりに言う。それを聞いたロイは、「教会だ… 青二才は教会に隠れてるんだ」。「違う。ロウソクの蝋じゃない」。そして、「分かったぞ」と言い、次のシーンはマダムー・タッソーの蝋人形館。ただ、この当時のロウソクはパラフィン蝋で作られていたので、パラフィン蝋だけでマダムー・タッソーには結び付かないと思うのだが… 蝋人形館に入って行った3人は、バラバラに別れてチャーリーを捜索する。ジョンは有名な「恐怖の部屋」に入って行くが、そこで、3人の後を付けてきた義和団と鉢合わせ、カンフーで闘う。その音で目を覚ましたチャーリー(1枚目の写真)。目の前で闘いが行われているので、慌てて逃げ出し、入った先がアメリカ西部の酒場。しかし、そこにはロイがいた。ポーカー台をはさんで逃げるチャーリー(2枚目の写真)。ビール瓶を、バーのカウンターの後ろの鏡をぶつけ、ロイがひるんだ隙に逃げ出し、王室一家の部屋へ。ロイも追ってくるが部屋には人形しかいない。しかし、チャーリーはうっかりクシャミをしてしまい、ヴィクトリア女王の巨大なスカートの中に隠れていたのを見つかってしまう。「おやまあ、ここか。出て来い。どこへやった?」。「何をさ?」。「分かってるくせに。その『何をさ』を返せ」。チャーリーは白状しなかったが、ロイは女王の脚に巻き付けてあった御璽を見つける。「差し支えなければ、返してもらうぞ」(3枚目の写真)。すごく嫌味な言い方だ。そして、用済みのチャーリーを追い払う。そこにジョンと警部がやってきて目出度し目出度しかと思いきや、「御璽を渡せ」の声がする。チャーリーを人質に取った義和団のボスが、チャーリーの首に剣を当てて「御璽を渡すんだ!」と脅迫(4枚目の写真)。これまで、ことごとくチャーリーに冷淡だったロイが、不思議と気前良く、御璽をボスに投げる。御璽を取ろうとして手を離した隙にチャーリーは逃げ、ほくほく顔の義和団が去った後に、なぜか警官隊が追い寄せ、ジョンとロイと警部(正確には失職した元警部)は逮捕されてしまう。
  
  
  
  

夜の街を馬車で護送される3人。その時、馬車の屋根に誰かが飛び降りた音がし、しばらくすると、後部の鉄格子から、チャーリーが顔を覗かせる。「お偉方は、道に迷うの好きだね(You gents lost your way?)」。最初に会った時と同じ言葉だ〔訳は微妙に変えた〕。ロイ:「坊主、ここから出せるのか?」。ほらね、とばかりに鍵を見せるチャーリー(1枚目の写真)。次には、もう4人が馬車から飛び降りるシーンになる(2枚目の写真)。ロイはチャーリーに帽子を返し、「見事だった。だけど、どうして戻ったんだ?」と訊く。チャーリーは、逆に、「なんで、『ぎょじ』とかを あきらめたんだい?」と訊き返す(3枚目の写真)。ロイ:「俺が バカだからさ」。チャーリー:「おいらも きっとバカなのさ」。「バカ同士、握手しよう」。そして、「名前、訊いてなかったな」と訊く。「チャップリン。チャーリー・チャップリンだよ」(4枚目の写真)。この点の「時代錯誤」についても、解説で述べた。
  
  
  
  

この後、ウー・チャウによる機関銃を使った女王暗殺計画と、それを阻止する派手なアクション。ラスボーン卿との最後の決戦を経て、3人はナイトに叙任される。そして、3人は立派な屋根なし馬車に乗って王宮前を出発する(1枚目の写真)。すぐにロイがジョンに話しかける。「ジョン、お前さんに 仕事の話がある」。「ツェッペリンは もういい」〔ロイがかつて勧めた無責任な投資先〕。「ツェッペリンより、ずっといい話だ。カリフォルニアで『映画』って呼ばれる新しいものが始まってる」。「やめとく」。「まあ、待て。最後まで聞け。『映画』なら お前さんの強みが活かせる。音がないから、言葉の問題も心配ない」と勧める。乗り気になるジョン。「ジョン・ウェイン(Chon Wang)、映画スター? うまくいくかも」という台詞は ご愛嬌。その時、馬車の後ろの荷箱に隠れていたチャーリーが、蓋を開けて顔を見せる(2枚目の写真)。鼻をこすると、手が汚れていたのか鼻の下が黒くなる。まさに、チャップリンのちょび髭だ(3枚目の写真)。ボーラーハットに黒い上着にウィングカラーの白いシャツもチャップリンの定番だ。ロイが、「チャップリンのガキを捨ててきたのは可哀想だが、俺達がハリウッドでガンガン飛ばす時、妨げになるかもしれん。非情な町だからな」。これは、チャップリンは実際に大成功するので、「非情」という言葉は、ロイの運命を表しているのかも知れない。
  
  
  

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